peach stories

気まぐれキーのスパ小説置き場

眩しい空の夢

 

 

 

 

 

それは小学校を卒業してから少し経った頃。

セミがみんみんと煩い暑苦しい夏のことだった。

あまり中学校に通う気になれなかった私は、いつもの如く昼間の公園で一人プラプラとブランコに揺られていた。

 

一般的な中学一年生よりは子供に見られる私が、いつまでも昼間の公園でぷらぷらしていると不審に思われる。なのでこれもいつもの如く、少し遠くの公園まで行こうとブランコから飛び降りた時だった。

 

「████ ちゃんですか…?」

 

後ろから急に名前を呼ばれて吃驚した私は、着地しようとした足を滑らせた。

咄嗟に私を抱き抱えたその人はほっとした様な表情で「良かった…」と漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ここじゃ僕が不審者と思われてしまうので場所を変えませんか?」

 

そう提案された私は、黒くて高そうな車の前に案内された。

案内された車の隣には、まるで物語の中に出てくるような燕尾服の人が立っていて、その人がドアを開けてくれ、どうぞと言われるまま不審者のような人とその車の中に乗り込む。

 

車の中は今まで見た事がないくらい広くて、ソファみたいな感じが物語の中のリビングみたいな感じで、何と……表せばいいのか分からないくらい広かった。

私と不審者の人は1つのソファに隣り合わせに座って、不審者の人が飲み物を聞いてきたので桃ジュースをもらった。

 

どうやら燕尾服の人が運転手のようで、その人が前に乗り込むと車は発進した。

 

「僕が言うのもなんですけれど、知らない人の車には無闇に乗り込むものじゃあありませんよ。」

不審者の人はティーカップを優雅に持ちながら言う。

 

「本当に君が言う事じゃあないな。」

私は、世界一美味しいんじゃないかと思うキンキンに冷えた桃ジュースをポーカーフェイスで飲み干した。

不審者の人は目をぱちくりとさせた後、ふっと微笑んだ。

 

「生意気な女の子とは可愛いものですね。」

ニコニコと微笑みながら言い放つそいつに、私は桃ジュースのおかわりを宣言した。

 

 

 

 

「さて本題に入るのですけど、いいですかね?」

 

桃ジュースのお代わりをもらった私は、大人しくこくりと頷く。

 

「おっと、忘れてました。その前に自己紹介が必要ですね。

僕は白命院 真夏(はくめいいん まなつ)。君が今から行く学園の理事長を務めています。」

 

水が滴ってくるグラスをテーブルに置いて、まじまじとそいつを見てみる。

ハット?を被っていて丸眼鏡をして、涙ボクロがある。髪は日に透けると茶色い黒髪で、ふわさらって感じだ。そしてタレ目で胡散臭い。

夏なのに暑そう、シャツの上にベストを着ていた。

 

「ふーん、はくめいいんまなつね…。真夏って呼ぶ。」

 

私がそう言うと、真夏は苦笑して

 

「本当は理事長先生って呼んでくれると嬉しいんですけどね、その方が呼びやすいならそれでよろしくお願いします。」

 

と言った。

そこからは学園及び私が何故学園に行くのかの説明が始まった。

 

「実は ████ ちゃんには一般的な人間にはない、特殊な能力が備わっているんです。その報告を受けた僕達がその特異な能力を持つ君達を保護、教育、支援するための施設が「学園」です。そこに僕達は今向かっているんですが、何か質問はありますか?」

真面目な顔で真夏は語る。

とりあえず新しい所に行くんだ、という感じだった。

 

「へぇ~、そうなんだ。とりあえずその ████ って呼ぶのやめてくれない?みみちゃんって呼んで、可愛いから。」

 

私がジュルジュルと桃を吸い上げながら言い放つと、真夏は大笑いをしてひぃと息をするように言う。

 

「ふっ、これを話してそんな反応されたのは初めてです、みみちゃんってすごく肝が座っているんですね、あははっ、面白い子だ。」

 

そうかな、私はそうは思わないけれど。変な人。

 

水無月!行き先を変えて、いつもの美容院に行ってくれないですか?」

 

真夏がそう前に向かって叫ぶと、前から

「了解ですー」と言う答えが返ってきた。

 

車の中で真夏と会話しながら【びよおいん】という所に向かう。びよおいんって病院じゃないよね…?と真夏に質問したら、髪を綺麗にしてくれる所だよ、と答えた。ちょっと安心。

今までどうやって暮らしてきたのかとか親の事とかよく聞かれてきた事を淡々と答えていると、【びよおいん】に着いたようで停車する。

 

そこからは小綺麗な所に連れて行かれ、知らない人に頭を洗われて髪を切られた。何だか久しぶりに前が見えるようになった気がする。

日本人の基本的な髪色とは違うであろう私の薄い桃色の髪の毛は顔も覚えていない人間にざく切りに切られていたのに、綺麗な【ボブ】というものになっていた。前髪も適当に可愛くなった気がする。

昔から髪の毛の色が思った通りに変えられるな、とは思っていたけれどこれが真夏の言っていた「特異な能力」なのだろうか。

 

ばさあっと巻き付けられていた銀色の幕が剥がされて椅子から降り、真夏の所へ向かう。

真夏は「おーっ、可愛くなりましたね!凄い可愛い」と言っていた。

絶対この髪型真夏の性癖だと思う。

 

真夏が会計を済ませたらまた二人で車に乗り込んで学園へと向かう。

 

「学園はね、普通の人が敷地内に入れないように作ってあるんですよ。僕の能力で隠しているんです。」

 

もしかしたら真夏って結構すごい人なのかもしれないなーと思いながら、何杯目か分からない桃ジュースを啜る。今日は暑いからか一段と喉が渇く。

 

桃ジュースでお腹いっぱいになった私は段々眠くなってきて、真夏の膝の上に頭を乗せて寝転がった。

「みみちゃんは猫みたいですね。」

夏の名前らしからぬ冷え冷えの手で頭を撫でられ続けた私は、体感数秒で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

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目が覚めると、水無月に抱き抱えられて運ばれていた。

 

「あー、目ぇ覚めましたか?

理事長が呼んでも揺すっても全然目を覚まさないもんで勝手に運んでましたよ。」

 

私はうー、と言いながら目を擦る。まだ眠たくてうとうとするなぁ…。

 

「みみちゃんもっと食った方がいいっすよ。

ぬいぐるみくらい軽いっす、軽すぎな。」

 

「運んで…もらいやすくて助かる…すやぁ…」

 

「まあそれはそうっすけど…」

 

誰かに密着すると途方もない安心感に包まれて良く眠れる。それは相手を選ばず誰でも、眠れるのだ。

 

「おーい、理事長室に着きましたよー。

……はぁ、まあいいか。」

 

眠たいので目を閉じていると、ガチャリと扉が開く音がした。

水無月はソファにそーっと私を寝かしつける。

言動によらず優しいんだな…。

 

そのまま眠りに落ちようとすやすやしていると、しばらくしてから真夏が入ってきた。

 

「みみちゃーん?まだ寝てるんですか?全く…。」

 

私が狸寝入りをかましていると、何だかごそごそと体勢が変わっていく。

また膝枕で眠れる事を期待したけれど、何故か上がったのは尻の方だった。

 

バチンッ!と尻を叩かれて、吃驚して目を開ける。

振り向くと怒ったような顔をしている真夏がいた。

 

「何?痛いのだけど。」

 

私がポーカーフェイスを保ったまま尋ねると、予想外の返事が返ってきた。

 

「何って、知らない人に簡単に着いて行ってしまう悪い子に教育をしているんですよ。」

 

白白とそんな事を言うもんだから、固まってしまう。そんな私に真夏はもう一打浴びせて言う。

 

バシッ!

 

「こんな肌が見えやすい服を着て、昼間でも貴女みたいな可愛い女の子が一人でうろうろとしていたら誘拐されてしまうでしょう?」

 

バチンッ!  ビシッ!

 

よれたダボダボのTシャツとショートパンツの上からでも結構痛い、何なんだ一体。

 

「誘拐したのは真夏でしょ。何を言っているのか分からない。」

 

バシッ! ビシッ!

 

「僕が説明をする前に、すぐ車に乗り込んだでしょう。あまりに危機感が無さすぎです。」

 

痛い。ちょっとだけ痛くなってきた。

 

「それは真夏が車に乗って話そうって言ったからでしょ。私は悪くない。」

 

そうですか…と真夏が呟いた途端、Tシャツがめくられショートパンツは下ろされ、下着のみになる。

 

「なにするの、ロリコン

変態的性癖なら最初から穴に突っ込めばいい。」

私、少しイライラしてる。

だって結局犯すんだったら最初っから、車の中で犯せば良かったのに。変な所にまで連れて来て、馬鹿みたい。

 

バシィッ! バチンッ!

 

「うっ…」

服の上からとは違う痛みに、少し呻き声が漏れてしまった。最悪。

 

「『教育』と言ったでしょう?私には貴女を犯すつもりはありません。そういう性癖も無いんです。分かりますね?」

 

ビシィッ! バヂッ!

 

そんなの…

「そんなの分かるわけない!離してよ変態サディスト!!何で私があんたの性癖に付き合わなきゃなんないわけ!?」

 

バシィッ! ビシィッ!

 

「やっと本音で話してくれましたね。みみちゃんはまだ13歳なんですから、大人ぶろうとしなくていいんですよ。」

 

「うるさ!!お前に何が分かるの!?離して!!帰る!!」

 

ビシィッ! バチンッ!

 

痛い痛い痛い…!!何なの!?何も怒られることしてない!普段通りにしただけなのに…!意味分かんない!

 

「もしかしたら…あまり考えたくないですが……知らない人の車に乗るのは、みみにとっていつもと同じ当たり前の事だったのかもしれません。」

 

ピトリ、とほんのり少し暖かい掌を尻の上に添えるのを感じた。私はその間に早く逃げ出そうとバタバタと真夏の膝の上でもがく。

ぜんっぜん動かない、ピクリともしない…。

 

「ですが、この学園に来たからにはもうやめて下さいね?あまり外出する事も無いかと思いますが、外出の機会はあります。知らない人には着いていかない。今、ここで、約束しなさい。」

 

真夏が腕を高く振り上げたのが分かった。

 

バチィンッ! ビシィッ! バヂィッ!

 

「ふっ…うっ…いったっ……!!何で、っ、約束しなくちゃならないっ!?私の自由!ほっといて!!」

 

バチンッ! バシィッ! 

 

「いやっ…うー……」

 

ビシィッ! バヂィッ!!

 

「うっ…いっ……」

 

バチィンッ! バシィィッ!!

 

「いぅっ…もっ……やだぁぁっ…ふぇ……」

 

痛い連打で、ちょっと涙が出てきた。もうさいあく。泣きたくなかったのに。

私が泣き出したのを見計らって、真夏が優しい声で聞いてくる。

 

「知らない人には…?」

 

「…………ふん。」

 

バチンッッ! バシィッ!

 

「あぅっ…つっ、着いて行かないぃっ!!分かったからぁ!!」

 

「うん、いい子ですね。あともう一つ。

ジュースを飲みすぎたら身体が冷え過ぎますから気を付けて下さいね?」

 

バチンッ!

 

「…っ、分かった!!気を付ける!ばか!!」

 

バタバタと暴れる私は、真夏が腰の手を離した瞬間に床へ落ちて対角に離れた。

 

「大丈夫ですか…?怪我、してません?」

 

「近付かないで!!!!

ちょっとは…良い人だと思ったのに…何で期待させるような事、する!?犯したきゃ犯せばいい!もう痛いのは嫌だ!!」

 

ボタボタと涙を零して、ヒステリックに叫ぶ。

こんなのは私じゃない。まるで私の母親みたいで、大嫌いな私だった。嘘つき、期待した私が悪いのに、馬鹿みたい、死にたい、そんな考えがぐるぐると頭を巡る。

 

「落ち着いてください、もう大丈夫ですから。」

 

いつの間にか真夏は私の目の前にいて、

 

「大丈夫、怯えなくていいんです。

痛かったですね、怖かったですよね、よく頑張りました。」

 

震えている私の事を抱きしめていた。

 

「ひっく…うっ…」

「みみちゃんは良い子ですよ。とっても良い子。

よしよし、偉いですね。きちんと約束できましたもんね。お利口さんです。」

 

真夏はそう言って、私の頭を優しく撫でる。

 

私の心に付け入ろうとして、薄っぺらい言葉を吐いてるに過ぎないんだ。

絶対こんなの、嘘なんだ。騙されてやるもんか。

私の事を心から褒めてくれる人なんてこの世界にいるわけが無い、バカみたい。

 

「怖いんですよね…人を信じるのが。良く分かります。傷付きたく、ないですもんね。」

 

「ふぇ…怖くなん…怖くなんてっ、ないもん…。」

 

真夏は私を掬い上げるように抱き上げるとソファへと運び、膝の上に座らせてぎうと私を抱きしめた。

 

「ゆっくりでいいんです…。ゆっくり、信じられるようになりましょう?ゆっくり誰かを信じられるように、ね?

大丈夫。今日は頑張りましたから、たくさん褒めさせてください。信じなくてもいいんです、僕が褒めたいだけなので。」

 

「ひう…うー…ふぇぇ……」

 

私はショートパンツがずり下がった無様な姿のまま、真夏のスーツにしがみついて撫でられていた。

 

「きちんとお約束できて、偉かったですね。お話もちゃんと理解できて、いい子でしたね。

よしよし、よく頑張りましたね。」

 

「うぅっ…知ってるし……何なのぉっ…。」

 

「ふふっ、可愛いですね。明日は入学式なので、今日は僕とご飯を食べてからみみちゃんのお部屋でゆっくりねんねしましょうね。寂しい時はいつでも呼んでいいですからね。」

あまりにも子供扱いをされるので、私の顔は耳たぶまで熱くなった。恥ずかしい、何この羞恥ぷれい。

 

「寂しい時なんてないから、子供扱いしないで。」

わたしがぷいっと顔を背けると、真夏はまた優しく頭を撫でて「そうですね」と言った。

 

 

 

 

 

========  おまけ   ==================

 

 

真夏「あっ、みみちゃん?野菜だけじゃなくてお肉も食べなくちゃあダメですよ?ご飯もきちんと食べなさい。

こら、僕のお皿に乗せてはいけません。」

 

「こら!お風呂に入ったら髪を乾かさないと!服を着て!逃げちゃダメですよ、そこに座りなさい。」

 

「みーみーちゃーん…?少しお話しましょうか?」

 

お風呂上がりに叱られてまたお尻を叩かれたみみは、痛くて一人では寝られずに結局真夏を呼ぶ羽目になったそうです。